交通事故の治療費や入院費などは、どこまで損害賠償請求できるのか?
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
交通事故でケガを負ってしまった被害者は、治療やリハビリにかかる費用、仕事や生活が変わることで収入減少や支出増加の不安は尽きないと思います。
では、交通事故の被害者は最終的に、どのような損害項目のお金を受け取ることができるのでしょうか?
そして、受け取ることができる損害賠償金は、一体いくらくらいになるでしょうか?
「損害賠償」というと、「慰謝料」のことだと思っている人もいるかもしれませんが、「慰謝料」は、「損害賠償金」の一部に過ぎません。
人生で何度も交通事故にあうわけではないのですから、被害者に交通事故の知識がないのは当然です。
しかし、その知識がないばかりに、加害者側の任意保険会社の内容を鵜呑みにしてしまい、損をしてしまうことがあるのも現実です。
そこで今回は、交通事故の被害者が受け取ることができる損害賠償金の項目や金額などについて、わかりやすく説明します。
目次
損害賠償金の項目は慰謝料だけではない!?
加害者側の任意保険会社との示談交渉や裁判の結果、交通事故の被害者が最終的に受け取るのは、〇千万円というような、まとまったお金です。
一般的には、損害賠償金というと、このように「ひとまとめになったお金」という印象を持っている人がほとんどかもしれません。
しかし、損害賠償金には、じつはさまざまな損害項目があり、それらが合算されたものなのです。
つまり、慰謝料というのもたくさんある損害賠償項目の中のひとつである、ということになります。
家計簿を想像するとわかりやすいでしょう。
家庭の1ヵ月の支出の中には、家賃などの住居費や食費、電気代やガス代、水道代などの光熱費、さらには交際費や娯楽費、子供の教育費や保険料、各種ローンの返済など、さまざまな項目があります。
これらを、しっかり把握しておかないと家計が大変なことになってしまいます。
同じように、被害者が正しい金額の損害賠償金を獲得するためには、それらの損害項目について正しく知り、漏らさずに請求しなければいけません。
ところが、ここで困ったことがあります。
それは、損害項目が非常に多岐にわたっており、その意味を理解するだけでも大変なことです。
「損害賠償金を構成する項目例」
治療費、入院雑費、通院交通費、付添費、休業損害、傷害慰謝料、弁護士報酬、後遺症慰謝料、将来介護費、将来雑費、損害賠償請求関係費用、装具・器具等購入費、家屋・自動車等改造費、葬儀関係費、修理費、買替差額、評価損、代車使用料、休車損、登録手続関係費 など
このように、1度見ただけではとても覚えられそうにないほど、さまざまな項目があります。
また、その額の算定方法が複雑な損害項目が多いことも問題です。
そのため、交通事故の被害者がすべての損害項目を把握してピックアップし、適正な金額を算定するのは至難の業です。
弁護士でさえ、交通事故問題に詳しくない人の場合は損害項目を見逃してしまうこともあるほどです。
大切なことは請求できる損害項目を正しく把握すること
交通事故の被害者が加害者側の任意保険会社と示談交渉する際、まず行うべきなのは、自分が請求できる損害項目をしっかりと漏れなく把握することです。
損害項目を理解していなければ、それぞれの項目で請求できる金額を正しく計算することもできません。
損害賠償金の総額を間違ったり、適正金額よりも少なく請求してしまうことになりかねないでしょう。
また、保険会社は裁判基準とは違う基準を使って、低い額の損害賠償金を被害者に提示してくることが経験上多いです。
ですから、被害者は自分が請求できる損害項目を把握して、それに基づいて正しい損害額を正確に算定することが大切です。
被害者が損害項目について理解できていれば、加害者側の保険会社が提示している和解案の金額が適正金額と照らし合わせて低いのであれば相手にきちんと説明し、さらに抜けている損害項目があればそれを指摘して、正しい金額を請求することができます。
正しい知識を身につけることは、交通事故の損害賠償での示談交渉では、もっとも基本的で、しかも有効な武器になるのです。
交通事故の被害者が絶対に理解しておくべき損害項目とは?
では、交通事故の被害者が理解しておくべき損害項目について説明します。
前述したように、被害者が請求できる損害項目はたくさんありますが、じつは頻繁に用いられる損害項目は限られています。
・治療費
・入院雑費
・通院交通費
・休業損害
・傷害慰謝料
・文書費(損害賠償請求関係費用の一部)
・後遺症慰謝料
・逸失利益
詳しくは後ほど説明していきますが、まずはこれらの損害項目について理解するのがいいでしょう。
ただし、損害項目には「積極損害」と「消極損害」と呼ばれるものがあります。
ここではまず、積極損害について詳しく説明していきます。
なお、金額については、裁判を行なった場合に最終的に提示されることになる裁判基準(つまり、適正な金額のことです)の金額を表示します。
ただし、交通事故といっても、すべてが同じ事故ではないのは当然です。
事案によって、一つひとつが異なり、それぞれ個別に判断されるので、あくまでの一応の目安と考えてください。
裁判基準を知っているかどうかで保険会社との示談交渉の行方が大きく違ってくるので注意が必要です。
積極損害に該当する損害項目を詳しく解説
積極損害とは、被害者が現実に支払った、または支払いを余儀なくされる金銭のことです。
積極損害に該当する項目としては次のものがあげられます。
①治療費
②付添費
③将来介護費
④入院雑費
⑤将来雑費
⑥通院交通費
⑦装具・器具等購入費
⑧家屋・自動車等改造費
⑨葬儀関係費
⑩損害賠償請求関係費用
⑪弁護士費用
ここでは①~⑤の治療費や入院費、介護費に関する損害項目について説明していきます。
① 治療費
【認められる金額】
・実費全額
【認められる条件】
必要かつ相当な範囲
治療費とは、交通事故で負ったケガを治すために必要な治療をした場合にかかった費用です。
当然、実費は全額が損害として認められることになります。
ただし、あくまで交通事故で負ったケガに対する治療費ですから、もともとあった持病の治療費は除かれます。
「過剰診療や高額診療は治療費に認められる?」
また、治療といっても、交通事故で負ったケガの状況からみて、医学的に必要ではない不相当な治療を行なった時は、過剰診療または高額診療として賠償金に組み入れられるのを否定されることがあるので注意が必要です。
過剰診療は、診療行為の医学的必要性または合理性が否定されるものをいうので、不要な治療を行なっているときには過剰診療として賠償金の請求ができなくなります。
高額診療とは、診療行為に対する報酬額が特別な理由もないのに一般の診療費水準に比べて著しく高額な場合をいいます。
「鍼灸やマッサージ費用は治療費か?」
ケガの状況や程度によっては、鍼灸やマッサージ、温泉治療などが必要となる場合があると思いますが、これらは治療費として請求できるのでしょうか?
じつは、交通事故の損害賠償は、原則として西洋医学によって必要性が判断される傾向にあります。
したがって、鍼灸やマッサージ費用を治療費として賠償金に組み込むためには、これらの治療が必要である旨の西洋医学の医師の指示書や診断書をもらっておいた方がよいでしょう。
「症状固定後の治療費はどうなる?」
担当医師から、「これ以上の治療をしてもケガの回復は見込めません」と言われることを「症状固定」といい、後遺障害が残ってしまうことになります。
治療を終了し、症状固定した場合、その後に治療をしても原則として治療費は請求できません。
なぜなら、これ以上は治療効果が上がらない状態が症状固定なので、その後の治療費は損害と認められないからです。
ただし、治療が必要かつ高度の蓋然性が認められる場合、たとえば症状の悪化を防ぐなどの治療である場合には、例外的に請求が認められることがあります。
「将来の手術費についての考え方」
子供が交通事故によるケガで負った後遺障害などで、将来に手術を行うことが確実と判断される時は、その手術費については損害として証明されるので損害賠償として認定されます。
ただし、医師の確定的な診断書が必要となります。
② 付添費
【認められる金額】
入院付添費は、職業付添人の場合は実費全額。
近親者付添人の場合は、1日に6500円(目安)。
通院付添費は、1日に3300円(目安)。
【認められる条件】
入院付添費は、医師の指示、受傷の程度、被害者の年齢などを考慮して必要があれば認められる。
通院付添費は、症状または幼児などで必要な場合に認められる。
入院付添費が損害と認められるのは、医師の指示、または受傷の程度、被害者の年齢などによって必要があると認められる場合です。
たとえば、看護体制が不十分であったり、被害者の年齢や重症度などによっては医師の指示が必要となります。
なお、症状の程度や被害者が幼児や児童の場合は1~3割の範囲で増額されることがあります。
通院付添費が損害と認められるのは、症状または幼児などで付添が必要と認められる場合です。
そのため、通院付添の必要があったことを立証できるように、通院当時の状況を説明できる資料を前もって収集しておいたほうがいいといえます。
③ 将来介護費
【認められる金額】
将来介護費は、次の計算式により算出する。
(年間の基準額)×(生存可能期間に対するライプニッツ係数)
【認められる条件】
医師の指示、または症状の程度により介護の必要があること。
重い後遺障害を負ってしまったケースでは、一生涯にわたって介護が必要となる場合がほとんどです。
こうした場合、介護費自体が損害となり、将来介護費として賠償額に組み入れられます。
ただし、将来介護費は、一生涯にわたる介護費を現時点で一時金として受け取ることになるので、将来にわたる利息分を現在に引きなおして計算されます。
その際に使われるのが上記の計算式です。
将来介護費は、原則として後遺障害等級が最も重い1級1号と2級1号の場合に認められます。
たとえば、高次脳機能障害や脊髄損傷、遷延性意識障害(植物状態)などがあげられます。
ただし、症状によっては3級以下の後遺障害等級の場合でも認められることもあります。
「基準額」
職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日に8000円が目安とされています。
ただし、具体的な看護の現場では、状況次第で複数の介護者を必要としたケースや、より高額な金額を想定した判例もあります。
そのため、介護の実態を詳細に立証するための資料収集が大切になります。
「生存可能期間」
平均余命年数とライプニッツ係数というものから上記の計算式で算出します。
ライプニッツ係数とは、現時点のお金の価値と将来のお金の価値は違うことから、その差を調整するための数値です。
一般的に、植物状態などの重い後遺障害を負った被害者は感染症にかかりやすいなどの理由から、通常よりも生存可能期間が短いとされるため、平均余命年数未満の生存可能期間を用いた判例もありますが、平均余命までの生存期間を用いることのほうが実務では多数です。
ですから、被害者側の任意保険会社が短い期間を主張してきた場合は、平均余命いっぱいの生存可能期間をしっかりと主張するべきです。
ただし、これらは専門家でなければ難しい部分なので、弁護士に相談することをお勧めします。
「当事務所の解決事例」
62歳の女性が道路を横断歩行中に、直進してきた自動車にはねられた交通事故。
女性は、頭部外傷で急性硬膜下血腫の傷害を負い、治療の甲斐なく後遺障害等級1級1号が認定されました。
寝たきり生活を余儀なくされ、生涯にわたって介護が必要な状態になってしまったのです。
ご家族から相談を受けた当事務所の弁護士は、まず自賠責保険に請求して4000万円を受領。
その後に任意保険会社と交渉しましたが、「将来介護費用は一切支払わない」と拒否したため、人身傷害補償特約会社との交渉に切り替えたところ、解決金額3886万5100円で折り合ったため示談が成立。
治療費を除いて、合計7886万5100円で解決しました。
④ 入院雑費
【認められる金額】
1日につき1500円
【認められる条件】
入院の必要があり、かつ入院していたこと
入院中は、洗面用具や寝具、軽食、新聞雑誌代、電話代など入院に伴うさまざまなものが必要となります。
これらにかかるお金を入院雑費といいます。
入院雑費については、被害者に領収書などを提示させ立証を要求することは煩雑であることから、特に領収書が存在しなくても、1日1500円という定額の雑費が認められています。
しかし、保険会社は1日1100円という自賠責保険の入院雑費を提示してくるのが一般です。
⑤ 将来雑費
【認められる金額】
将来介護費は、次の計算式により算出する。
(年額)×(生存可能期間に対するライプニッツ係数)
【認められる条件】
将来介護について雑費が発生すること
将来雑費は、原則として後遺障害等級が最も重い1級1号と2級1号の要介護の場合に認められます。
将来介護が必要となった場合、紙おむつやタオル、手袋などの費用である将来雑費が必要となります。
これらの費用も損害に入る可能性があるので、請求することを忘れないでください。
こうした費用は、状況によって金額が異なるので、必要となる雑費についてはわかりやすく表にしたり、領収証はしっかり保存しておくことをお勧めします。
被害者が示談交渉で損害賠償請求できる項目(積極損害:交通費等編)の解説はこちらから↓
交通事故被害に伴う交通費、葬儀費用、弁護士費用などは損害賠償金に含まれるのか?
ここまで、被害者が加害者側の任意保険会社に請求することができる損害賠償金の項目について解説しました。
いかがだったでしょうか?
とても難しい内容だったと思います。
我々は、損害賠償請求では被害者には間違いなく、正しい金額を受け取っていただきたいと思っています。
しかし、被害者が適切な損害賠償金額を請求していくのは苦労と労力をともなうかもしれません。
でも、1人で苦しまないでください。
1人では難しいことも、力を合わせることで可能になります。
そのためには、ぜひ一度、みらい総合法律事務所の弁護士に相談してみてください。