交通死亡事故で大切な慰謝料や示談交渉の知識
突然の交通事故で大切なご家族を亡くされた方に、お悔やみを申し上げます。
おそらく、これからどうすればいいのか? 何をしなければいけないのか? 途方に暮れている方もいらっしゃるでしょう。
そこで本記事では、交通死亡事故の被害者の方のご遺族が、これから行なっていくべき大切なことについて弁護士が網羅的に解説します。
葬儀の後は加害者の刑事裁判、慰謝料などの損害賠償金の示談交渉など、ご遺族が行なうべき重要な手続きがあるので注意するべきポイントとともにお話ししていきます。
交通死亡事故の発生から流れを追って見てみましょう
まずは、事故発生から示談解決までの大まかな流れや必要な手続きなどについて確認してください。
①死亡事故が発生
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②警察からの「聞き取り調査」への協力
実況見分調書などの作成に協力します。
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③加害者の起訴、不起訴の決定
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④起訴された場合は刑事裁判で量刑の決定
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⑤任意保険会社と示談交渉開始
慰謝料などの損害賠償金(示談金)の提示があり、金額に納得がいかなければ示談交渉に入ります。
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⑥示談が成立
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⑦示談が決裂した場合は裁判へ
提訴して裁判を起こす場合は弁護士に依頼します。
交通事故では実況見分調書が重要
(1)実況見分調書とは?
交通事故の発生後、警察に通報すると、事故現場では警察官による実況見分が行なわれます。
実況見分とは現場検証のことで、これをもとに「実況見分調書」が作成され、次のことなどが記載されます。
・見分の日時・場所・立会人名
・現場道路の状況
・運転車両の状況
・立会人の指示説明(最初に相手を発見した地点、ブレーキを踏んだ地点、衝突した地点など)
※さらに、事故現場の見取図や写真等が添付されます。
刑事事件では、もっとも重要な証拠の一つとなるのが、この実況見分調書です。
起訴するかどうか、また刑事裁判での量刑の決定にも関わってきます。
また、後の示談交渉や民事裁判でも過失割合における大きな証拠、判断材料にもなるので、実況見分調書はとても重要なものです。
(2)供述調書(遺族調書)とは?
交通事故に関わる書類には供述調書もあります。
交通事故が起きると、警察は加害者と被害者双方に聞き取り調査を行ない、供述調書を作成します。
死亡事故の場合は被害者の方が亡くなっているため、ご遺族が聞き取り調査を受けます。
ここで作成されるのが、遺族調書です。
遺族調書では、亡くなった方の生前の様子や加害者に対する処罰感情などについて聞き取りが行なわれるので、素直に思いを話されるといいでしょう。
加害者の刑事事件の判決が出るまでは示談交渉は行なってはいけない
(1)示談交渉は刑事裁判の判決が出てから始める
警察が捜査した後、加害者の刑事事件は検察庁に移り、捜査が行なわれます。
そして、最終的に加害者を起訴するか、不起訴とするか判断され、起訴となると刑事裁判が始まります。
ところで、加害者が任意保険に加入していれば、示談代行サービスがついている場合が多いので、被害者の方のご遺族の示談交渉相手はその保険会社になります。
通常、四十九日が過ぎると保険会社は慰謝料などの損害賠償金(示談金、保険金ともいいます)を提示してきます。
そして、その後に刑事裁判が開始されるというのが通常の流れになりますが、ここで気をつけていただきたいのは、示談成立の時期です。
刑事事件の判決が出る前に示談を成立させて損害賠償金を受け取ってしまうと、「一定の償いは行なわれた」と裁判所が判断して、加害者の量刑が軽くなってしまうことがあります。
ですから、判決が出る前に示談交渉は行わないという選択を行うご遺族も多いです。
(2)被害者参加制度を活用する
刑事裁判は、罪を犯した疑いがある人=被疑者を検察官が起訴し、始まります。
国が加害者を裁くため、民事裁判のようにご遺族は関わりません。
しかし、「被害者参加制度」というものがあり、次のようなメリットがあります。
・加害者側の供述内容を知ることができる。
・ご遺族も刑事裁判に参加して直接、意見を述べることができる。
・被害者感情を裁判官に訴えることができる。
参加を希望される場合は、交通事故に詳しい弁護士に相談するのがいいでしょう。
(3)見舞金は受け取ってもいい?
なお、加害者側が損害賠償金とは別に「見舞金」の提供を申し出ることがあります。
これは、加害者側が量刑を軽くする目的もあるので、受け取るかどうかはよく考えて決めるのがいいでしょう。
慰謝料などの損害賠償金は誰が受け取ることができるのか?
交通死亡事故の場合、被害者の方には死亡慰謝料が支払われますが、すでに亡くなっているため、受取人はご遺族になります。
ここで注意が必要なのは、ご遺族であればどなたでも受け取れるわけではないことです。
受取人は、法律で定められている「相続人」になり、順位があります。
相続人の順位は、第1順位は子、第2順位は親、第3順位は兄弟姉妹となります。
亡くなった方に配偶者がいる場合は、つねに相続人になります。
後々に、親族間で損害賠償金(保険金)の受け取りでもめることのないよう、相続人の確定を行なうことは大切です。
死亡事故で請求できる損害項目について
交通死亡事故で受け取ることができる損害項目には、次のものがあります。
(1)葬儀関係費
自賠責保険から支払われる金額の上限は、
60万円です。
損害賠償金の請求については、「被害者請求」と「任意一括払い」の2つの方法があります。
そこで、たとえば葬儀費用に100万円がかかった場合は、次のような請求の仕方があります。
①被害者請求
先に自賠責保険に請求をする場合、ご遺族はまず60万円を自賠責保険から受け取り、残りの40万円は加害者側の任意保険会社と示談交渉していく方法。
②任意一括払い
初めから任意保険会社と100万円について示談交渉をしていく方法。
どちらの方法がいいのかはケースバイケースですから、ご遺族の経済状況や過失割合、任意保険会社の対応が鈍いなど状況によって、トータルに考えて選択するのがいいでしょう。
加害者側の任意保険会社は120万円以内の金額を提示してくる場合が多いのですが、示談交渉が決裂して提訴した場合、裁判で認められる上限額は150万円(原則として)になります。
墓石建立費、仏壇購入費、永代供養料などが認められるかどうかは、それぞれの事故によって個別に判断されます。
(2)死亡逸失利益
死亡事故にあわなければ、被害者の方が将来的に得られたはず利益(収入)です。
<死亡逸失利益の計算式>
(基礎年収)×(就労可能年数に対するライプニッツ係数)×(1-生活費控除率)
=(死亡逸失利益)
①基礎年収
事故前年の収入を基本として計算します。
②就労可能年数
原則として、18歳から67歳とされます。
③ライプニッツ係数
・ライプニッツ係数とは、現在と将来ではお金の価値に変動があるため、その差額を現時点で調整するためのものです。
・算出が複雑なため、あらかじめ定められた係数表から求めます。
・民法改正により、2020年4月1日以降に起きた交通事故については、ライプニッツ係数の率は3%になっています(以降、3年ごとに見直される)。
【参考情報】
「就労可能年数とライプニッツ係数表」
(厚生労働省)
・亡くなった場合、所得はなくなってしまうため「労働能力喪失率」は100%になります。
【参考情報】
「労働能力喪失率表」(国土交通省)
④生活費控除率
・被害者の方の家庭内での立場や状況によって、概ねの控除率が決められています。
<生活費控除率の目安>
被害者が一家の支柱で被扶養者が 1人の場合 | 40% |
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被害者が一家の支柱で被扶養者が 2人以上の場合 | 30% |
被害者が女性(主婦、独身、幼児等含む)の場合 | 30% |
被害者が男性(独身、幼児等含む)の場合 | 50% |
・男性の場合、生活費控除率は50%とされますが、一家の大黒柱で被扶養者がいる場合は、その人数によって30~40%になる場合がある。
(3)慰謝料
死亡事故の場合の慰謝料には、死亡慰謝料と近親者慰謝料があります。
①死亡慰謝料
死亡した被害者の方の精神的苦痛や損害に対して支払われるものです。
<死亡慰謝料の相場金額:弁護士(裁判)基準の場合>
被害者が一家の支柱の場合 | 2800万円 |
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被害者が母親・配偶者の場合 | 2500万円 |
被害者がその他(独身者・幼児・高齢者など)の場合 | 2000万~2500万円 |
ただし、この金額はあくまで目安のため、事故の状況、悪質性などによっては交渉によって増額する場合があります。
②近親者慰謝料
・被害者の方の近親者(ご家族など)が被った精神的苦痛・損害に対して支払われるものです。
・受取人が、両親(父母)、配偶者(夫・妻)、子供の場合の金額は概ね、被害者本人の慰謝料の1~3割ほどになることが多いです。
・内縁の夫や妻、兄弟姉妹、祖父母にも認められる場合があります。
(4)弁護士費用
訴訟になり弁護士が必要と認められる事案では、通常、認容額の10%程度が相当因果関係のある損害として損害賠償額に加算されます。
弁護士費用相当額は示談交渉では認められません。裁判で判決までいった場合に認められるものです。
裁判で判決までいくと、「弁護士費用相当額」の他にさらに「遅延損害金」というものが追加されます。
裁判はしたくないと考える方もいますが、上記のように弁護士費用を加害者側に負担させることができ、さらには損害賠償金が増加するというメリットが裁判にはあることも知っていただきたいと思います。
慰謝料などの示談について知っておくべき7つのこと
(1)そもそも交通事故の示談とは何か?
交通事故が発生した際に、被害者側と加害者側の間で次のような問題について話し合うことを示談といいます。
和解して、解決すれば示談成立となります。
①その交通事故によって、どのような損害が生じたのか?
②損害額は、金額にするといくらになるのか?
③支払い方法は、どのようにするのか?
示談は勝ち負けを決めるものではありませんが、条件で和解ができなければ被害者の方は提訴して裁判で解決することができます。
(2)示談交渉は誰と行なうのか?
加害者が任意保険に加入していれば、その保険会社が示談交渉の相手になります。
任意保険の契約内容には「示談代行サービス」が組み込まれている場合が多いため、被害者の方は加害者と直接交渉はしません。
(3)示談交渉を始めるタイミングはいつ?
前述したように、交通死亡事故の場合、通常は四十九日が過ぎると加害者側の任意保険会社から慰謝料などの損害賠償金額の提示があります。
そこではまだ示談交渉には入らず、加害者の刑事裁判が終わってから示談交渉に入るのがいいでしょう。
ですから、交通事故に強い弁護士に依頼するのも、そのタイミングが良いと思います。
(4)慰謝料などの計算で使われる3つの基準の違いを知っておく
交通事故の慰謝料を算定する場合、次の3つの基準が使われます。
「自賠責基準」
自賠責保険によって定められている基準で金額がもっとも低くなる。
「任意保険基準」
各損害保険会社が独自に定めている基準で、自賠責基準より少し高い金額で設定されている。
「弁護士(裁判)基準」
過去の裁判例から導き出された基準で、法的根拠がしっかりしており、もっとも高額になる。
被害者の方が本来受け取るべき金額。
これらは、
弁護士(裁判)基準>任意保険基準>自賠責基準の順に金額が低くなっていきます。
ですから、被害者の方としては、もっとも高額な弁護士(裁判)基準での慰謝料を目指すことが大切なのです。
(5)消滅時効に注意してください!
交通事故の損害賠償請求にも時効があります。
法的な効力や権利が一定の時間が経過するとなくなってしまうことを消滅時効といいます。
時効の期間を過ぎてしまうと、ご遺族は慰謝料などの損害賠償金を一切請求することができなくなるので、くれぐれも注意していただきたいと思います。
(6)過失割合にも注意が必要!
交通事故では過失割合が大きな争点になることがあります。
過失割合とは、被害者と加害者の双方がそれぞれどのくらいの過失があったかを表すもので、被害者の方とご遺族にとっては、この割合が高くなるほど慰謝料などの損害賠償金の受取額が少なくなってしまいます。
特に交通死亡事故の場合、被害者の方は亡くなっているため、実況見分調書、示談交渉、裁判では主張することができず不利になることも多くあります。
加害者が有利になる発言をして、それが採用されてしまうこともあるということです。
ですから、亡くなった方の名誉のためにも、正しい主張をして、立証していくことが重要です。
そうした時には、交通事故に精通した弁護士が心強い味方、サポーターになってくれます。
(7)死亡慰謝料は増額する場合があります!
次のようなケースでは、慰謝料が増額される可能性があります。
・被害者やご遺族の精神的苦痛がより大きいと思えるような場合
・被害者側に特別な事情がある場合
・その他の損害賠償の項目を補完するような場合
このような事情がある場合は、ご遺族だけで悩まず、一度弁護士に相談いただければと思います。