無保険者傷害条項
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
定義
無保険車傷害条項とは、被保険者が人身事故で死亡または後遺障害の損害を被った場合に、加害者が対人賠償保険に加入していない等の理由で十分な賠償がなされないときに、加害者に代わって保険会社から保険金の支払を受けられる保険。
特徴
・死亡または後遺障害の発生が支払の条件。
※傷害を負っただけでは適用されない。
・支払われる額は、加害者に対する損害賠償請求額。
※実損填補型(対人賠償保険と同額が支払われる。当然過失相殺された後の額。)
・加害者側に法律上の損害賠償義務が存在することが必要。
※当て逃げ事故の場合のように誰が賠償義務者が分からなくても、法律上の賠償義務者が存在すれば適用される。
※被保険者の過失が100%であり自賠法3条に基づく損害賠償請求権が発生しない場合は適用されない(この場合、人傷保険のみ適用される)
・保険会社は被害者の加害者に対する損害賠償請求権を取得し求償することになる。
被保険者の範囲
被保険者は、以下のいずれかに該当する者で、保険契約者と保険者(保険会社)との間の保険契約により保険金を受け取る権利を有する者(約款)。
①記名被保険者
②記名被保険者の配偶者(内縁も含む)
③①または②の同居の親族
④①または②の別居の未婚の子
⑤前記の他、被保険自動車の正規の乗用装置または当該装置のある室内に搭乗中の者
⑥前記の他、 ①~④に規定する者が自ら運転者として運転中の被保険自動車以外の自動車の正規の乗用装置または当該装置のある室内に搭乗中の者
ただし、いずれの場合も、極めて異常かつ危険な方法(箱乗り等)で自動車に搭乗中の者は除外される。
※胎児の保険金請求を認めた判例あり〈最高裁H18.3.28判決〉
※約款の確認が必要。
無保険自動車の範囲
①対人賠償保険等が付いていない場合
②対人賠償保険等は付いているが、免責が適用される場合
③対人賠償保険等の保険金額が、被害車両の無保険車傷害保険金額よりも低い場合
④相手自動車が明らかでないと認められる場合(当て逃げ等の場合)
※約款の確認が必要
特有の免責事由
以下のような固有の免責条項が規定されているのが通常
①被保険者の父母、配偶者、子、使用者、同僚使用者が賠償義務者である場合
(ただし、これら以外の賠償義務者がいる場合は支払われる。)
②無保険自動車が被保険者の父母、配偶者、子によって運転されている場合
(ただし、無保険自動車が2台以上で①で示された者以外の者が運転する他の無保険自動車があるときは支払われる。)
③被保険自動車に適用される対人賠償保険によって損害がカバーされる場合
④被保険者が「事業用」自動車(自動車検査証に記載あり)を運転している場合
⑤被保険者が被保険自動車以外の自動車に競技、曲技(練習を含む)もしくは試験のために搭乗中の場合
※建前は傷害保険だが、実質的機能は対人賠償保険の肩代わりであるという特殊性から固有の免責条項が規定されている。
※約款の確認が必要
支払金額
・実損害を填補する性格の保険なので、通常の人身賠償額の算定方法で算出する。
・約款では通常、「被った損害について法律上負担すべきものと認められる損害賠償責任の額」を支払金額と規定している。これは、判決や和解で決まるはずの額をいう。
・当然、過失相殺された後の額が支払金額となる。
・自賠責保険金などの額は控除される。
・約款で支払限度額について、保険証券記載の無保険車傷害保険金額から、「対人賠償保険等の保険金額」または「他の自動車の無保険車傷害保険等の保険金額」のいずれか高い額を差し引いた額と規定していることが多い。(肩代わりの性質)
・支払金額の内容は、被害者と保険会社との間の協議で決定される。(被害者と賠償義務者(加害者など)との間で損害賠償額が決まっていなくても)
ただし、当該協議以前に、被害者と賠償義務者との間で賠償額を決めていた場合、保険金支払い額に影響することには注意が必要。
請求方法
①「賠償義務者」に対して書面で損害賠償請求をする。
具体的には、損害賠償請求書など損害賠償を請求する旨の書面に、
a事故に関わる損害賠償の請求を行うこと、
b対人賠償保険または対人賠償共済の有無及びその内容について文書による回答を求めること、
などを記載し内容証明郵便等により請求する。
②「保険会社」に対して次の事項を書面で通知する。(約款に記載あり)
a賠償義務者の住所・氏名または名称
b賠償義務者がつけている対人賠償保険等の有無とその内容
c賠償義務者に対して行った損害賠償請求の内容
d保険金請求権者が、賠償義務者、自賠責保険等、対人賠償保険等の保険者または賠償義務者以外の第三者から既に取得した損害賠償金またはその売買傷害があるときはその額
交渉の進め方について…
保険会社は保険金を支払った後、賠償義務者に対して求償することになる。
そして、保険会社は、その求償請求の際に賠償義務者との間で求償額(賠償金額)の妥当性について争いになることを避けるために、被害者との交渉段階で安易な増額は認めない傾向にあると思われる。逆に、裁判で賠償金額が決定したのであれば、保険会社はその賠償金相当額を賠償義務者に求償し易い。
そのため、被害者としては、保険会社と交渉して増額を見込めないと思ったら直ちに訴訟を提起するのが良いと思われる。(加害者に対する損害賠償請求訴訟と保険会社に対する無保険車保険金請求訴訟の併合訴訟を提起する。)