治療中ですが、保険会社から「健康保険を使ってください」と言われました。どうすればよいですか?
回答
健康保険を使っても大丈夫です。
理由
ア 健康保険の使用について
交通事故により怪我をした場合の治療の方法としては、健康保険による診療と自由診療があります。
健康保険による診療は、保険医療機関において、保険で認められた治療方法や医療行為について認められるものです。
これに対して、自由診療とは、治療方法や医療行為などが保険によって制限されていない診療をいいます。自由診療による場合には、健康保険による診療と比較すると被害者本人が支払う治療費が高額となります。これは、医療機関の診療報酬は、医療行為を点数に換算して求められるところ、健康保険による診療では1点の単価が10円と定められているのに対し、自由診療では20円や30円とされる場合があることや、健康保険による診療を選択すれば被害者の方が負担する自己負担額が2割~3割となるからです。
医療機関の中には、「交通事故の場合には健康保険は使えません。自由診療となります。」と言って、健康保険の適用を拒否するところがあります。
しかし、これは間違いです。交通事故の場合であっても、健康保険を使用することができます。医療機関は、自由診療の方が高額な診療報酬を受けることができるため、そのような説明を行っているだけです。
健康保険の使用ができることは、旧厚生省の通達(「健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取扱いについて」昭和43年10月12日保険発第106号)についても明確に認められています。
ですから、健康保険を使っても大丈夫です。健康保険適用外の治療が必要となったときは、その部分だけを自由診療とすれば良いでしょう。
イ 過失相殺との関係
健康保険を使用するかどうかは、過失相殺との関係でも問題となります。過失相殺とは、交通事故の原因について被害者にも過失があった場合には、その割合を損害額から差し引いてしまうという考え方です。この場合、損害額が大きくなればなるほど、過失相殺で減額される金額も大きくなります。
したがって、過失相殺との関係で考えると、治療費損害はできるだけ抑えておく必要があります。
そうだとすると、基本的には、健康保険を使用しておいた方がいいでしょう。
なお、事故直後に担当の警察官から「あなたには過失がない。」などと言われるケースがあります。
しかし、これは、あくまで刑事上(自動車運転過失致傷等)の過失の話であって、民事の過失割合の話ではありません。
ですから、安易に「私には過失などないはずだ」などと判断しないようにしましょう。一般常識と裁判所の過失割合の判断が食い違うことはよくある話だからです。