専業主婦で、給料をもらっていませんが、逸失利益はもらえますか?
もらえます。
専業主婦は、他から収入を得てはいませんが、判例上、「家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を挙げているのである。」として、主婦に逸失利益を認めました(最判昭和49年7月19日民集28巻5号872頁)。
もっとも、家事労働に従事することが財産上の利益を挙げていると評価されるのは、それが他人のために行う労働である場合であり、自分自身の身の回りのことを行うことはこれに当たりません。そのため、一人暮らしで無職の女性が死亡した場合には、家事労働の逸失利益は認められず、後遺症のため身の回りのことができなくなった場合にも、基本的には逸失利益は認められず、就労の蓋然性があれば、別途その収入に関して逸失利益が認められるのみです。
専業主婦について採用すべき基礎収入については、平成11年に発表された東京地裁、大阪地裁及び名古屋地裁の「交通事故による逸失利益の算定方式についての協同提言」(以下「三庁共同提言」といいます。)において、次のように考えられています。
「原則として全年齢平均賃金による。ただし、年齢、家族構成、身体状況及び家事労働の内容などに照らし、生涯を通じて全年齢平均賃金に相当する労働を行い得る蓋然性が認められない特段の事情が存在する場合には、年齢別平均賃金を参照して適宜減額する。」
具体的には以下の三つの例が挙げられています。
① 事故日 平成9年3月
被害者 45歳の高卒の専業主婦(夫と未就労の子供二人)
事故前収入 なし
労働能力喪失率 35%(傷害)
【逸失利益の算定】
基礎収入を平成9年の女子の全年齢平均賃金である340万2100円とし、これに、労働能力喪失率の35%、及び、45歳から67歳までの22年の労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数である13.1630を乗じて算定する。
(計算式)
340万2100円×0.35×13.1630=1567万3644円
② 事故日 平成9年3月
被害者 88歳の専業主婦(夫と二人で年金生活)
事故前収入 なし
労働能力喪失率 35%(傷害)
【逸失利益の算定】
88歳という年齢及び夫と二人で生活していることを併せて考えると、そこにおける家事労働は、もはや自ら生活していくための日常的な活動と評価するのが相当である。したがって逸失利益は認められない。
③ 事故日 平成9年3月
被害者 74歳の専業主婦(夫と二人で年金生活)
事故前収入 なし
労働能力喪失率 35%(傷害)
【逸失利益の算定】
74歳の女性の平成9年における平均余命は14.34年であるから、すくなくとも7年間は家事労働を行うことができ、これを金銭評価するのが相当である。そして、年齢と生活状況を併せて考えると、その間の家事労働を平均して金銭評価すれば、平成9年の女子の65歳以上の平均賃金が296万4200円であることに照らし、その7割に相当する207万4940円とするのが相当である。したがって、基礎収入を207万4940円とし、これに労働能力喪失率の35%、及び、7年の労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数である5.7863(2020年4月1日より前の事故の場合)を乗じて算定する。
(計算式)
207万4940円×0.35×5.7863=420万2178円